筑波NA記録の裏側
2/17に筑波サーキットで行われた“Attack”。そこでFF NA最速記録を達成した「浅井シビック号」。
このマシンは、弊社APJがフルサポートしている車両であり、この一年間テストを繰り返しマシン、エンジンセッティングなど苦労の連続でした。最速記録を達成した瞬間の感動と喜びそして回想録を弊社代表はfacebookで友達限定で綴っています。
弊社は常々、「お客様の喜ぶ姿」を思い描きつつパーツの開発、販売をしております。そのような思いがこの文章にも溢れています。
そこで社員である河西がここでも紹介すべきだと思いアップいたします。長文ではありますが、最後の言葉が全てを物語っていると思います。最後までお読みいただきAPJの魂を感じていただければと思います。
筑波NA記録の裏側。
題して『浅井さんの決死の覚悟』
2/17に出した浅井号の記録に関して当日の詳細、舞台の裏側を自分への備忘録をかね詳しく書き留めておきたいと思います。
長文になるのでご容赦を。
アタック当日は車両展示のみとなってしまいました。その前日の2/17の朝から予感は始まっていました。
いつものように到着する朝5時半の時点での現地の気温は-3度。走行開始9時時点で1度。何と気圧は驚きの1,028hPa。余談ですが、年始からはずっと1,013台。これが1,020を超えるとタイムを出す条件が良いなど言われています。
外気温と気圧が良い条件は年に数回しかありません。この時点でこの日しかない!と心が躍りました。
遠い札幌が拠点の浅井さんは筑波近辺にガレージを借りて車両を保管。整備をしては一人飛行機で筑波を往復すると言うとんでも無い情熱をかけている人です。
なので、ガスケットが抜けてもエンジンや何かが壊れても寒い現地で朝までに何とかするしかないのです。それを私が灯油ヒーターなどを持ち込んでお手伝いしているのです。(私は筑波までクルマで1時間(笑))
当日の朝、いつものようにエンジンをかけようとしたら当日に限ってエンジンがかからない。。。初爆したのに止まってしまったからさ~大変。。
数回クランキングするともうセルが死んじゃう車両。どうして?それは圧縮15以上と言うとんでも無い圧縮比だからです。当然あらゆるセルをこれまで試しました。中身を真鍮ギアに組み替えようが絶対的なパワーが市販品では足りないのです。となると、選択肢は数回のクランキングごとにセルを交換するです。だから10個も用意する必要が有る訳です。とんでも無いでしょ!?(笑)
焦る程にかからない。ブースターを繋いでも回らない。
はい。急ぎ交換しましょう!と慣れている浅井さんは諦めるのも早いです(笑)で、新品セルとプラグを交換です。見ての通り慣れている浅井さんは参ったな~と言いながらすぐに取り替えます。
交換してエンジンがかかり、今度は止まらないように気を使って何とかパドックに移動できました。究極車両は気が休まる瞬間は有りません。。
まず最初にタイヤをウォーマーの電源を入れ、いつものルーチンで準備します。明日のATTACK本番はどうせオイルが出まくって路面が荒れるのは目に見えている。絶好のコンディションの今日にベストを狙いましょう!と。
この時点から浅井さんの気迫はいつもと違っていました。
はじめに、昨年3月10日のHKS走で出した自己ベストは55.964。はじめて55秒台に入り、FF NAレコードを樹立したタイムです。
昨シーズンは何度走るもガスケット抜け、、その度に夜なべしてガレージで修復。思い出すだけでもぞっとする程大変でした。何度走るもトラブルの連続。肝心のATTACKでも出ず。
悔しいし手ぶらでは札幌に帰れない!と撤収するのを留まり、その後の走行会を探してエントリー。気温が上がった3月に入り、やっとの思いで出したタイムです。
この時NA部門ではあくまでFF最速。M’s Cayman GT3ポルシェが55.509、3ローターペリのRX7が55.595、浅井シビックは55.964と0.4秒離れている。。
高価なポルシェやロータリーに対して大衆車シビックの4気筒エンジンでは無理なのか??いや、諦めたくない!と言う一心で丸一年忙しく準備して来た訳です。
さて、最もコンディションの良い朝一9時からの1本目の走行。ウォーマーを剥がしてホイールを装着。ベストなタイミングでコースに出てその結果は、55.627。
ヤッター!と思ったのも束の間。なんと数年振りに出て来てくれたTON号にやられた。。。まさかの55.585。。末恐ろしいです。ASLAN TON号。。。
もうこの世界はもう一周走ったらタイムが出るかも?と言うのが無い世界です。一撃必殺の1周で決めるしかないのです。。。
でも、タイム差はわずか。次の走行で抜くしかない!!次の10時の第2走に賭けよう!と相成りました。
同じルーチンで準備して第2走コースイン!アウトラップからまずはTON号が最終コーナーを立ち上がってきたがあれ??浅井号が来ない(汗)
そのままピットインです。。。慌てて聞くとエンジンが吹けない。回らない(涙)
パドックで急ぎ確認するとエンジンがバラバラ言っている。。何でだ?? すぐにPCを繋げて見ると謎のエラーが多数。。トリガーエラーやら色々と。。
となると、センサーか断線か?と思い、みんなでカプラー抜き差ししたり揺すったり(笑)エラーコードを消してはエンジンをかけて吹かして様子を見るも吹けない。。
二人で相談して、いずれにしてもエンジンが回る上で必要な情報は気筒判別とカムの位置検出。断線もカプラーもおかしくないのでセンサーとしか考えられない!
スペアは??無い!!。。。。。いや、有る!有るぞ!と思いついたのは私が万が一に備えて前日にプリウスに積んだスペアエンジンだ!とすぐ近くに停めていたのでダッシュでスペアエンジンからカムセンサー2個を外してダッシュで交換。再度エラーコードを消してリスタートしたらいきなり吹けた!!!
やった!やったぞ!!と思ったが走行時間終了でもう走れず。。。。
ここでチーム全員無言で心の中でため息。。。すると浅井さんは午後の走行も出ましょう!やるしかないでしょう!と。
しかし、次は午後2時からです。寒いとはいえ、一日で最も気温が高い2時。。。でもベストを尽くすしかない!とここで浅井さんの表情が変わりました。
それはまさに『決死の覚悟』の形相。
そして平野さん!先ほどのフレッシュタイヤの削りをお願いします。リアはフレッシュを投入します!と。
私も悩んだと言うか、考えに考えました。このタイヤで最もグリップする表面を作り、暖める。少し削ってはトレッドの角が立つ状態に何度も確認しては熱を持たないように水をかけながら出来る限り綺麗な表面をと。
そして、再度ウォーマーを巻いての暖め。ここでまた二人で相談。
TONさんのSEC3が異常に速い。ドラテクは別として、もしかしてこのGSタイヤは強烈なタイムとGでインフィールドは良いけど、最後の最終コーナーでタレているのでは無いか??
ならばウォーマー温度を下げて最終コーナーで帳尻を合わせて最後に最大グリップが出るように賭けてみよう!その代わりSec1ではグリップが足りないかも知れないのでそれはドライバーが何とかしてくださいと。
レブは8,300回転。シフトアップでアクセルを戻さず回しきってタイムを出してきます!と言った浅井さんの形相はまさに『決死の覚悟』。私は、最終コーナー生き残って出てきてください!!!と。
いつも通りコースインして行くも、祈りを捧げる両手が離せませんでした。
ピットから見えないコースから聞こえる音は好調。エンジンはちゃんと回っている!
そして今か今かと最終コーナーを凝視しているとFFなのに前輪・後輪がワナワナと揺れながらコース幅目一杯を使いきり立ち上がってきた!生き残った!!!
とすぐさまモニターを見ると一気にジャンプアップして55秒144!!!!!!!!もう鳥肌が立ちました。この歳になってこんなに感動したのは久しぶりです。
パドックに戻ってきた浅井号はまさに『満身創痍』エンジンからは白煙がモウモウと上がり、息も絶え絶えながらもドライバーを連れ帰って来てくれました。
エンジン関係をずっと面倒を見てきた私もよくやった!よく戻ってきたと涙が出てきました。ホント、よく耐えてくれた。。
大衆車シビックで高級車を撃墜し、NA全体の頂点に立った瞬間です。
もう言葉にならないほど感動しました。浅井さんも精も根も尽き果てていましたが飛び上がって喜びました。
セクタータイムを見ると筑波計測で206Kmも出ました。他のシビックは出ても190Km。そりゃーこのパワーに羨む事でしょう。
ターボ並みの加速。車重820Kgにしてパワーは恐らく450馬力越え。つまりパワーウェイトレシオは驚愕の1.8台。Sec3で9秒869は2Gを超える強烈な世界です。
でも、TONさんは190KmでSec3がもっと凄い9.475。ワケが分かりません。足と腕で勝てないならとにかく掟破りでもパワーを上げるしか有りません!
後日談となりますが、ATTACK本番でそんなASLAN TON号は55.2までまたタイムを上げてきました。これまたワケが分かりません。。宇宙人としか例えようが無い(滝汗)
となると、55秒9から必死の思いで55秒1を出しましたがウカウカしてられません。もはや誰が先にNAで54秒を出すか?に突入です。
今回、まさか55秒1を抜かれでもしたら即座にスペアエンジンに交換し、昨年のように3月上旬まで何が何でも抜くつもりでしたが今回は大丈夫そうなので私も浅井さんも休む事が出来ます(汗)
来年は間違いなく54秒の世界に突入することでしょう。浅井さんとは既に来年に向けたエンジン開発の打ち合わせをもう今日から始めました。次はアルミコンロッド仕様かな?(笑)
絶対にエンジンでは誰にも負けない!そう言い切れます。なぜなら凄いのは私では無く、浅井さんの情熱に共感し、助け、支えて下さっているアメリカの4 Piston Racing、ダイアモンドエンジニアリングさん、Frictionをはじめとした多くのプロ集団が作り上げた結晶だからです。
4 Piston Racingなんて大金払って社長のルークを始めエンジンビルダーのJoshやSeanの3人で駆けつけて応援してくれた程です。情熱は国境を越えるんです。
以上が前日走でのドラマでした。
翌日のアタックでまだ狙うならすぐに夜なべしてでもエンジン交換しましょう!と言いましたが、浅井さんは燃え尽きていました(笑)もう明日は車両展示にしましょうと相成った訳です。
そしてその翌日のATTACK本番は周知の通りです。多くの方がアップされているのであえて申し上げる事は有りません。
10周年を迎え、どんどん賑わってきているATTACK本番。努力し、それを支えている多くの人々で成り立っている素敵なイベントです。
タイムアタックと言うお金がかかり、極端な競技かも知れませんが、そこに努力と情熱を惜しみなく注いでいる人達が多く居ることが事実です。
努力は裏切らない。そう信じている私はそういう人達を出来る限りサポートし続けたい。APJ平野はそう考えています。